Born to be murder.

生まれつき殺人者の人間はいない。
殺人は、或いは罪は、生まれた後の未来で「犯す」ものだ。「犯した」状態で生まれてくる人間はいない。
そういう意味で、すべての赤ん坊は祝福されて産まれてくる。まさしく無垢。
でもあたしは違った。あたしが生まれた瞬間、ママは死んだ(らしい)。
あたしは生まれつきの殺人者だった。
あたしはこの事実を十一歳と二ヶ月(と38時間と25秒)の時に知って、二度目の殺人をその三ヶ月後に行った。


殺したのは友達のさーちゃんだ。
さーちゃんはとってもかわいらしい女の子で、みんなのアイドルだった。
黒いポニーテールをふりふりいわせて走り回る彼女の姿は、当然あたしも大好きだった。



 か 
  ら 殺した。


殺した。


なぜ殺したのかはすぐには理解することができなかった。
ふたりっきりになって、海辺の堤防からまっさおな海を見下ろすさーちゃんの姿がとってもまぶしく感じた。あたしは。


あたしは感じたのだ。悟ったのだ。
たぶんそれは愛情表現なのだと。

愛。




ラヴだ!


あたしは生まれる時にママを殺した。
どうやって殺したのかはよく分からない。
ママのおなかをつき破って出てきたのか(それだったら嬉しいかも。主体的にママを殺したことによって、あたしの特性は守られる/助長される)、逆子だったというあたしの期せぬマ

イナス方向へのがんばりがあたしのママを殺させたのか。それはよくわからないけども。
それでもひとつ確かなのは、あたしはふたりを愛していた、ということだ。それもものすごく。


だから殺した。殺さざるを得なかった。ママを殺してしまったことは不可抗力なのかもしれない(というかそれが限りなく真実に近いことは火を見るよりも明らかなのだけれど)。今まではその事実を知る事は無かったから普通に生きてきた。生きてくることができた。でも、十一歳のあたしは生まれつきの殺人者であることを知ってしまった。そういう星の下(『そういう』というのはつまり、あたしが殺人者であることも、それを知るということも、両方含んでいる)に生まれたのだ、あたしは。

愛を示すために、殺す。

或いはあたしが愛を示すことでその人は死んでしまう(結果的にあたしの手/本能/うまれもった特性によって)。そういう方法でしか愛を示すことができない。


だから私は美学を持つ。
殺人の。
愛を伝えるための手法を磨く。
だって、『結果的にあたしの手によって』なんて注釈をつけるのは嫌だもの。
あたしは愛している人(たち)を殺す。
殺すのはいけないことだ。
ひとりよがりな理由で愛する人たちを殺してまわるあたしは悪い子だ。
でも、あたしの存在は愛する人を殺すという行為によって担保されている。
これをやめることはできない。
そこに後ろ向きな理由は付けたくない。だからやめない。だから殺す。


愛を。
 愛を。
  愛を。
   愛を。
    愛を。
     


伝えるために。

そして三度目四度目五度目の殺人を犯して愛する人々に愛を伝えたあとも更に殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して伝えて殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して伝えて殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して伝えて殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して伝えて殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して伝えて殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺し伝えて殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して伝えて伝えて伝えてあたしは二十一歳(もうこの頃にはいちいち日数や細かい時間なんてカウントしてない)になったからもうそろそろヒトゴロシなんて辞めて(止めて、ではない。あたしは生まれもってのヒトゴロシなわけだから辞めてという言葉を使う)山にでも籠もって仙人みたいな暮らしでもしようかなーなんて日照ったことを考えながらぶらぶらぶらと街を歩いているそんな私に声をかけてくるオトコノコ。
しらない子だがあたしは彼の瞳に見覚えがある。

愛を湛えた眼だ。

いつも相手の瞳に映ったあたしの眼だだからあたしは悟るやっとであえたであえてよかったでもそんな幸せはながく続かなくてそれこそ十秒も続かなくてあたしは彼を殺せず彼に殺される。


彼を殺せないのは残念だったが、あたしは満足していた。彼もまた生まれつきの殺人者だったからあたしの愛は伝わった。はじめて。殺さずに愛を伝えられた。だから感謝もしていた。でも彼の事が同時に心配でもあった。彼はまた愛したものを殺し続ける孤独な日々を送るのだから。あたしが彼を殺せていれば。ごめんなさい。あたしは心臓から血を噴き出しながらそんな事を考えている。彼の方を見て精一杯伝えようとする。彼はにこりとわらい、ありがとうとつぶやいた。ああ、やっぱりこれは愛、なのだ。ありがとう。愛してるよ。