ちーちゃんは悠久のむこう/日日日

今をときめく若手『小説家*1』、日日日(あきら)、である。
実は9月頃に買ったんだが積んでいた。


同年代ということもあり、結構ナメてかかった訳ですが、存外に面白かった。
只、文体はそんな好みじゃない。解説でも書かれてたけど、『古臭い』というか。
あと台詞回しにあんまりセンスが感じられない。
一番残念に思ったところは、『リアリティ』を感じない、というところだ。
この話は『あちら側』への愚かしいまでの好奇心によって此岸と彼岸の境目を見失った少年少女の物語だ。
だからこそ、『あちら側』の異質さを際立たせるために、『こちら側』に留まってる人間達こそが魅力的に、説得力のある描写で描かれなければいけないじゃないのか。
この作品では、『こちら側』の『普通の人間*2』達はカギカッコ付きで喋ることすら許されない。彼らの言葉は情景描写に紛れ、世界を変えていく力を発揮することはない。喋る権利があるのは、自意識が肥大したりなんかして、芝居がかった口調をする奴らだけ。それはそれで構わないけど、『ちーちゃん』や『林田*3』というフリークスに対するアンチテーゼにはなりえんと思うのだ。
だからこそ主人公にはもうすこし健康な人間がなってほしかったな、と思う。あんなとってつけたような不幸な設定をつけなくても…という感じではあった。



まぁ、あと、ちーちゃんが萌えないつうことかw
表紙絵から想像するパーソナリティ(おとなしいとかそんなん)とはかけ離れた振る舞いに度肝を抜かされた。
まさにフリークスなのだ。だから僕は彼女が理解出来なかった。それはそれで良いとは思うのだが。


まぁ、アレだけ気持ち悪いくらい自分の欲望に忠実な内面フリークス少女が書けるっつうのはそれはそれでスゲーですな。
何となくすっきりしない感じを受けたのであと1,2冊くらい読んでみようか。
『賞総ナメ』ってほどのすごさは感じませんでしたが。あと『あとがき』は…多分10年後に読み返すと日日日くんはそうとう赤面するでしょうね。そんな感じ。まぁ、読者を無視している事を宣言するのはやっぱり印象悪い。そういうのは嫌いじゃなくて、むしろ好きな部類ではあるけども、ギリギリの『ポップさ』っつうのが残ってないと『小説家』としては失格だと思います。



ちーちゃんは悠久の向こう (新風舎文庫)

ちーちゃんは悠久の向こう (新風舎文庫)


追記:
ちーちゃんで感じたある種の違和感というか空虚感こそが『リアル』なんだろうか。
でも空虚感だけじゃ駄目なんだよな。自分を中心にしたちっちゃな『セカイ』がぶっ壊れるような経験をしたって、東京に核ミサイルが落ちたり*4とか、物理的な破壊が起きない限りなんとなく生きてはいける、そんなちょっとした希望とも言えない希望が描かれてないと駄目なんだと思う。この小説はやっぱり救いが無い。悪い方向に。

*1:あえてこう書く。

*2:主人公の言葉を借りるならば『不幸度の足りない人間達』、だ。

*3:引越し作業中に付き本が見当たらないので名前、違うかも。

*4:この仮定も想像力が貧困ですが