spiderland.

僕は床屋にいる。鏡の前、布をかけられ、髭をそられている。
一見すればごく普通の床屋だ。
ひとつ違うのは、店主の気が狂っている、ということだった。


ぶつぶつと意味不明な言葉を僕の耳元で呟きながら、もう産毛すらない頬を剃刀が撫でる。

しゅるるるり、そりりりりりり

切り傷がひとつ、またひとつと増えていく。
たらり、とあかいものがひとすじ、流れ出す。
店主は意味不明な呪詛を唱えつづけている。
僕は恐怖で動けずにいる。
剃刀は淡々とリズムを刻み続ける。


しょろろろろろり、そろろろり

しゅるりりりりりりり、そっ、ぞぶっ

崩れる均衡、首筋に深々と突き刺さる刃、迸る鮮血。
店主の呟きは歓喜の叫びにかわる。



…ギャー!怖いよ!CDレビューなのにお前何書いてんだと言われそうではあるが、ぼくにとってこのCDはこんなイメージなのだ。
ケンタッキーの伝説のバンド、スリントの2ndである。

偶数、奇数とめまぐるしく変わる拍子
耳の中に手を突っ込んでかき回されているような不協和音ギター
ぞりっとした感触のノコギリみたいなベース
パワフルでソリッドで、なによりダークなドラム
暗い囁きに喉をかきむしってるみたいなシャウト

これらの要素が複雑に絡み合って、ビルとビルの間を綱渡りしてるような緊張感が全編に張り詰めている。ちょっとでもバランスを崩したらもう終わり。落ちる、落ちない、でも落ちそう、落ちない…もう駄目、耐えられない!ってとこで爆発する轟音パート。完璧。

そう、まるで狂人の床屋に髭を剃られてるみたいな。最高のスリル。
そのスリルの虜になった僕はくもの巣に絡めとられたあわれな小虫だ。
Spiderlandとはなんと的確なアルバムタイトルであろうか。
なによりこれが91年の作品だってことがオドロキである(Bastroとかもそうだけどこの時期のケンタッキーはやべえな)。
マスロックもポストロックもここからはじまったのだ。
ジャケもかっこよすぎ。単純にヘヴィロックとしても最高。

Spiderland

Spiderland

Nosferatu man